【第4期 5月定例会開催レポート】仕事と介護の両立支援~職域で果たすべき役割を問い直し、実践に活かす視点を探る
エクセレント・ケア・カンパニー・クラブ 第4期 5月定例会レポート
仕事と介護の両立支援~職域で果たすべき役割を問い直し、実践に活かす視点を探る
「介護は個人の問題」と切り離されがちな中で、企業としては何ができるのか。
職域で果たすべき役割とは?
エクセレント・ケア・カンパニー・クラブ(ECC Club)第4期は、
「“ビジネスケアラー”の実態とは 職域支援に必要な視点を得る」をテーマに、5月定例会を開催。
個別相談窓口で「仕事と介護の両立」「これから始まるであろう介護への不安・準備」に対応してきた専門家の講演をふまえ、参加企業が自社の施策立案・実践に活かせる視点と工夫について議論を交わしました。
■インプットセッション「両立支援で間違えてはいけないポイント」
Speaker
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木場 猛(こば・たける)
株式会社チェンジウェーブグループ チーフ・ケア・オフィサー
介護福祉士、介護支援専門員、東京大学文学部卒業
武蔵野大学別科 介護福祉士養成課程 非常勤講師
2001 年の在学中から現在まで20 年以上、現場の介護職として2,000世帯以上の高齢の方とご家族を支援。
2018 年株式会社リクシス( 現チェンジウェーブグループ) に参画。
現在も高齢者支援や介護の現場に携わりながら、仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT 」ラーニングコンテンツ作成や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を年400 件、延べ2000人以上の質問・相談に応じている。
2023 年には両立のための知識と備えをまとめた「仕事は辞めない!働くx介護 両立の教科書」(共著、日経BP社刊)を出版。
「“介護=休職”ではない、両立支援の考え方」
5月定例会は、チェンジウェーブグループ・木場猛CCOの講演から始まりました。
まず、木場氏から伝えられたのは「両立支援に必須の視点」です。
①「すべてを自分で抱え込まない」
両立していくために、専門家や外部サービスを積極的に活用し、当事者が自分でやりすぎないという考え方が重要です。
自身のキャリア継続を重視し、その上で介護の調整を行うこと。長期間にわたる可能性もある介護との両立において、大事なポイントです。
②支援の軸は「働く、を支援する」
長期化、個別化する介護に対して「休む」を前提とするのではなく、「働くことを支える」設計が大事です。
単に「介護離職を防ぐ」のでなく、「働きながら介護する従業員をどう支えるか」に焦点を当てます。
③「どのように働くか」について対話する
介護=「休む」に直結して考えがちですが、実際には「どう働き続けるか」が重要です。
介護を抱えた方だけでなく、育児、治療など、多様な人材がいる職場をどうマネジメントしていくか、につながる課題です。
介護予備軍へのアプローチがなぜ必要なのか
木場氏は、株式会社チェンジウェーブグループで個別相談窓口の相談員を務めています。年間400件の相談実績をふまえ、「まだ介護が始まっていない」予備軍にこそ、適切な情報提供や支援が必要であると話しました。
①予備軍はビジネスパーソンの半数近く
両立支援で大事なのは「介護」についてのみ相談するのでなく、「両立」がテーマだと言うこと。対象は、すでに介護に直面している従業員だけではなく、将来介護に関わる可能性がある「介護予備軍」も含みます。むしろ早期のアプローチの方が重要であると言っても過言ではありません。
チェンジウェーブグループが企業で働く約43,000人に調査したところ、現在介護中の従業員は全体の約7.7%。
「いつ介護が始まってもおかしくない」切迫層は19.2%、「数年以内に介護が始まる可能性がある」近未来まで入れると、介護予備軍は47%にのぼります。(出典;ビジネスケアラー白書2025 :株式会社チェンジウェーブグループ )
②無関心層、はほとんどいない
同じ調査で、介護に対して「不安を感じる」と回答した人は86%、「考えたことがなく、不安かどうかもわからない」という人が9.4%でした。
また既に介護中の方よりも、介護が「今にも始まりそう」な方のほうが強い不安を感じているという結果もあります。
具体的な状況が見えない中、「わからない」「イメージがつかない」という不安が広がるためかもしれません。
こう考えると「無関心層」と呼ばれるような方々は、実際にはいないのではないかと思います。
③相談者の6割は「介護前」。どのように両立するか、を整理し提案する
実際、木場氏が担当する両立相談窓口では、相談者の約6割が介護前の従業員とのこと。どのようなきっかけで相談に来るに至ったのか、背景としては「自社で開催されたセミナー」や「実態把握の機会」に背中を押されたという方が多いそうです。
また、「定期的なプッシュ型の情報発信」という働きかけも効果が高いとのこと。
自社セミナーの後に配信されたお知らせで「漠然とした不安でも相談していい」と書いてあったので相談に来た、案内メールを何度も受け取り、7回目にやっと踏み出せた、など、会社からの継続的な「プッシュ」があってようやくアクションに繋がったケースもお伝えしました。
■ディスカッション「職場で必要な支援とは?」
インプットセッション後は、ECC Club参加メンバーでグループディスカッションを行いました。
まだ介護が自分ごとになっていない層にどう届けるか、について、各社の取り組みが共有されたほか、制度以外の働きかけ~ソフト面での環境整備についても意見が交わされました。
制度はある。情報提供もしているが、適切に届いているだろうか──。
本定例会では、そんな現場の課題感を当事者・予備軍の心理からひもとき、行動を後押しするための“職域支援のあり方”を捉え直す機会となりました。
両立支援は、単なる制度整備ではなく、社員一人ひとりの「働き続けたい」という思いに寄り添い、自律的なキャリアを支えるための役割でもあります。
ECC Clubでは今後も、実務に活かせる知見と、企業同士の学び合いを通じて、現場に根ざした取り組みを支援していきます。