【イベント報告】制度整備の先にある「実効性」を考えるECC Club第4期カンファレンス開催レポート

【イベント報告】制度整備の先にある「実効性」を考えるECC Club第4期カンファレンス開催レポート

「Excellent Care Company Club(以下、ECC Club)」は、仕事とケアの両立をテーマに実践知を共有する業界横断型のコンソーシアムです。
2021年の発足以来、第4期までにのべ55社が参画し、各社の制度設計や施策、現場での工夫が数多く共有されてきました。

本レポートでは、2025年11月、ECC Club参加企業が今年度の総括を発表したカンファレンスについてお伝えします。

制度は「整えること」から「機能させること」へ。
2025年度は、両立支援の実効性が初めて本格的に問われた年だったと言えるかもしれません。

改正・育児介護休業法が施行され、多くの企業で仕事と介護の両立に関する制度整備が進んだ一方、
「制度はあるが、適切に、有効に利用されているのだろうか」
「情報が届いているのか分からない」
といった悩みも増えてきたからです。

制度を整えた“その先”で、いま何が問われているのか。

ECCclub第4期は、企業の人事・両立支援担当者の悩みや違和感を起点に、
実践の工夫や試行錯誤を企業横断で共有しながら、その「実効性」について考えました。

カンファレンスではまず、参加者に会場アンケートを実施しました。

「現場で最も課題を感じるのは何ですか?」

最も多く挙げられたのは「未介護層・潜在層の関心が高まりにくい」
制度や情報を整えても、従業員の行動につながっていないのではないか、
未介護層にはそもそも届いていない、
情報提供を継続的に実施していくにはどんな工夫が必要なのか。

こうした課題は、多くの参加企業に共通するものでした。

基調講演では、東京大学名誉教授であり、中央大学ビジネススクール・フェローでもある 佐藤博樹氏に登壇いただきました。

リスク・マネジメントとして仕事と介護の両立支援に取り組まなければならないというメッセージとともに、現場で起きている誤解について、具体例を交えてお話しいただきました。

佐藤氏
「育児・介護休業法、と並べて言われますが、育児と介護は全く違います。子育ては妊娠してから準備する時間がありますが、介護はすぐに動かなければならない。しかも、介護はいつまで続くか分かりませんから、自分が介護に専念してはいけません。
企業人事の皆さんは、『自分が担うこととヘルパーさんが担うことは違う』と伝えていく必要があります」

このほか、介護休業の取得率をKPIにしてはいけない、など、両立支援に対する正しい「考え方」をお伝えいただきました。

講演の後は、ECCClub運営委員で、厚生労働省「実務的な介護両立支援の具体化に関する研究会」委員を務めた大嶋寧子氏とのディスカッションがあり、
「両立支援は何をKPIとして進めるのか」について議論が交わされました。

佐藤先生からは、「介護は休暇の取得率で成果を測ることはできない。休むことで自分が介護を抱え込みすぎてしまう場合もあるからだ。
介護や両立に関する理解度が上がった、不安が減った、といった項目や、両立できる社員の増加といったところで見るのが良い」とのアドバイスがありました。

続いて、ECC Clubの企画をリードする株式会社チェンジウェーブグループの代表・佐々木裕子氏とCCO(チーフ・ケア・オフィサー)の 木場猛氏が登壇し、
ECC Club第5期参加企業が集めたロールストーリーを題材にした調査結果を発表しました。

ロールストーリーとは、当事者の体験談を指します。
ストーリーの共有を通じてケアラーにも多種多様な形があることを知り、当事者ではない方にも知識や共感を持っていただくことを目的に、第5期参加企業22社が合わせて28本のロールストーリーを収集しました。

(調査レポートより一部抜粋)

職域での悩みとして「仕事優先であり、周囲に言いにくい」「働き方に柔軟性がないため、両立が難しい」といった声が挙げられた一方で
「仕事を続けていて良いのだ」と思えるような声かけを職場で受けた、という経験が業務継続に大きく影響していることも伺えました。

木場
「介護に対する思い込みを解くきっかけになった事柄は多岐にわたりますが『仕事と介護の両立に関するアクションをしている会社』と認識することは、心理的安全に繋がる大きな要因だと言えそうです」

佐々木
「どのように制度活用を促していこうか、情報をどう届けようか、と悩んでいる企業が多いかと思います。しかし、集まったロールストーリーを見ていくと『継続することが大切』ということが見えてきます。施策の効果は確実に出てくるのは間違いありません」

このセッションで発表した、ロールストーリー調査レポートはこちらからお申込みいただけます。

1.「介護前の従業員」を動かす情報発信 第3分科会、第4分科会、第5分科会

情報発信をテーマに取り組んだ3つの分科会では「自分には関係ない」「まだ先の話」と考えている社員の行動を促すアプローチを検討しました。
発表では、伝え方の工夫で受けとめ方が変わる可能性があることが示されています。

・関心を引くキーワード設定: 「介護予防(介護を10年遅らせる)」といった、非当事者のメリットに刺さるタイトルで社内セミナー参加者を倍増。
・「知る→深める→実践」のステップ: 情報を一度に流すのではなく、リテラシーの段階に合わせたステップを設計する
・ロールストーリーの活用: 体験談に用語解説(「要介護1とは?」など)を紐付け、2ヶ月間にわたって継続発信する

2.周囲を「最強のサポーター」に変えるツール 第1分科会、第2分科会

周囲の理解をテーマにした分科会からは、周囲がどのように関わっていくのか、迷わずに動けるツールが発表されました。

・初動対応フローチャート: 「準備・初動・両立」の3段階でマネジメントの心構えを整理。上司が迷わず的確なアドバイスを行える体制を整える。
・1枚の「クイックガイド」: 制度、相談先、トップメッセージを1枚に凝縮。情報へのアクセスをスムーズにし、組織全体の介護リテラシーを底上げする。

  1. 「制度」起点から「風土」醸成へ 第6分科会、第7分科会、第8分科会

制度を適切に利用してもらう、また、両立が当たり前にできるためには「風土」を醸成していく必要がある。
支え合いや風土醸成をテーマにした分科会からは、制度を「日常の延長」に近づけるための工夫や、キャリア形成を軸に持つことの重要性などが発表されました。

・コミュニティによる心理的安全性の確保: 社内コミュニティがあることで、情報交換が活発になり、当事者の精神的負担が軽減されることがロールストーリーからも見えている。
・ありたいカタチの実現: 「自分はどうしたいか」を起点に考え、仕事の充実と介護の満足を両立できる支援設計(マインド・風土・リテラシーの整備)を目指す
・グループシナジーの活用:企業の枠を超えた連携が経営課題としての認識を強める 。
グループ共通の認識を醸成し、トップダウンとボトムアップの両面から情報を届け続けることで、制度を「風土」へと昇華させる

分科会発表の詳細については、カンファレンスアーカイブ配信でご視聴いただけます。
視聴申込はこちら

カンファレンス後のアンケートでは、多くの参加者から率直な声が寄せられました。
そこに見えたのは「自社の状況を捉え直す視点を得た」という実感です。

「業界を問わず、同様の課題を抱えていることが分かった。他社事例が自社の参考になった。

「悩みは共通だな、と思いました。やらねばと思いながらなかなか推進できていない中、推進するきっかけ(ヒント)をいただけたと思います」

「具体的な事例を通じて、自社での取り組みがイメージできた」

「施策以前に、考え方や前提を見直す必要があると感じた」

「人事同士で率直に話せる貴重な場だった」

ECCclubは、問いを共有し、考え、実行し続けるための土台をつくる場として機能してきました。

制度整備が進んできたからこその課題や「介護」を単独のテーマとして扱うことの限界。
そうした悩みを安心して言葉にし、互いにアドバイスしあえること。
それがこの場の価値であったと言えるかもしれません。

第4期までの活動を通じて浮かび上がったのは、
両立支援の成否は、制度の有無だけではなく、
人が動くまでの“構造”に左右されるという点でした。

情報は届いているはずなのに、行動につながらない。
制度はあるのに、使われない。
その背景には、 言葉の遣い方、情報の置き方、周囲との関係性など、
複合的な要因が重なっていることが、各分科会の議論からも明らかになっています。

こうした第4期の実践と議論を踏まえ、
ECC Club第5期では、
「なぜ行動につながらないのか」
「行動が生まれる職場とはどのような状態なのか」
という問いに、より構造的に向き合っていきます。

ビジネスケアラー支援を起点にしながらも、
介護を単独テーマとして切り出すのではなく、
未介護層を含めた職場全体のあり方、
そして人的資本経営の文脈の中で、
行動が生まれる条件を企業横断で整理していく予定です。

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