【第4期 8月定例会レポート】ケアラーと共に働く職場の意識醸成
8月のECCクラブ定例会は「ケアラーと共に働く職場の意識醸成」がテーマでした。
運営委員である大嶋寧子氏(リクルートワークス研究所・主任研究員)より、最新研究「育児・介護と仕事を両立できる職場づくり」にもとづく講演をいただき、参加メンバー同士で議論を深めました。
Speaker

リクルートワークス研究所
主任研究員 大嶋 寧子 氏
外務省経済局(OECDに関わる政策調整等)、民間シンクタンク(国内外の雇用労働政策等)等を経て、2017年リクルートワークス研究所に参画。女性のキャリア支援、仕事と介護の両立を始め多様な人材の活躍に関わる研究に長年従事。主な著書に『不安家族』(日本経済新聞出版社)、『30代の働く地図』(共著、有斐閣)など。東京大学大学院経済学研究科博士課程(経営学)在学中。
ライフイベントが働く人とその周囲に与える影響
講演ではまず、育児や介護といったライフイベントが本人と周囲に与える影響について調査結果が示されました。
■本人の変化
昇進・キャリアアップ意欲、キャリアの展望など、キャリア形成意欲が低下する
定着意向、職場の人間関係、仕事のスピードと効率は向上する傾向がある
約3~4割の人は「他律・定型・非専門的業務」が増加し、将来意欲の低下と関連が予想される
一方、約3割では「高度な仕事が増える」との前向きな変化も見られるなど、変化にはばらつきがある。
■周囲の変化
会社満足、職場の公平感、働きやすさの感覚が低下
定着意向、仕事のスピードと効率は下がっている
不満は育児・介護中の同僚に対してではなく、会社の仕組みや働き方に向かう傾向
詳しくはこちらをご覧ください
(リクルートワークス研究所:社員の人生と企業の成長をつなぐ経営 ―育児・介護中もその周囲も 社員が輝ける職場づくり―https://www.works-i.com/research/report/work-life.html)
本人・周囲が仕事への意欲を持ち続けるための「4つの取り組み領域」
周囲の不満は「当事者」ではなく「職場の仕組み」「会社の対応」に向かうことからも分かるように、社員の育児や介護による仕事への影響を「お互いさまだから」で持続的に解決することは難しいと言えます。
では、双方が意欲的に働き続けるためには企業のどんな取り組みが有効なのでしょうか。
模索を始めている企業への調査により、4つの領域が挙げられました。
業務プロセスの効率化
組織的な人材・キャリア開発
幅広い社員が利用できる柔軟な働き方
社員の人生全体を尊重・応援する風土形成
特に「柔軟な働き方」は、直接的な改善効果は弱いものの、仕事の質や量の“望まぬ変化”を防ぐ間接的効果があると整理されました。
一方で、周囲の定着意向低下とも関連があるため、情報共有や協働機会、評価の納得感づくりとセットで導入することが重要です。
また、周囲への金銭的手当・評価・人員補充は一時的に効果を持ちますが、業務改善や風土改革と併用して初めて効果を発揮することも強調されました。
詳しくはこちらからご覧ください
(リクルートワークス研究所:社員の人生と企業の成長をつなぐ経営 ―育児・介護中もその周囲も 社員が輝ける職場づくり―https://www.works-i.com/research/report/work-life.html)
両立支援に求められる方向性
講演の後、参加メンバーから意見・質問が出され
- 柔軟な働き方は本人にとってはプラスだが、周囲に負担や分断感をもたらすリスクがある
- 制度の導入は「意図を伝えるメッセージ」や「業務改善」と組み合わせてこそ効果がある
といった視点が共有されました。
「お互いさま」に依存するのではなく、多様な働き手それぞれを尊重し合う風土と働き方、業務の工夫・改善を一体で実装することが求められる、との認識が参加者全体で深まりました。
「お互いさま」から「仕組みで支える」へ
今回の定例会で改めて認識されたのは、ライフイベントが本人と周囲の双方に影響を与えるという事実です。
当然のことかもしれませんが、人事部門に求められるのは、当事者支援だけでなく、周囲の社員も含めた公平で納得感のある職場づくりです。
制度だけに頼るのではなく、業務改善や風土醸成と一体で取り組むことが重要だと言えます。
ECC Clubは今後も、参加企業の学び合いを通じて、実践的な知見を共有してまいります。
2025年11月7日(金)には、今期の総括となるカンファレンスも予定しておりますので
ご興味持っていただけましたらお問い合わせください。
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